移民総研

諸外国における移民問題を分析・解説していきます。

2018年11月

l  イタリア南部に、人口の4分の1が外国人というリア―チェという村があります。ゴーストタウン寸前だった村を救ったのがルカーノ氏。難民の人々を受け入れ、廃屋を修復して住居を確保しビザを手配しました。また、国からの助成金で地域通貨を発行して、織物やガラス細工などの技術を難民たちに教えて、自分たちで働いて、毎日の糧を得られる経済圏を構築しました。この成功により、2016年に「フォーチュン誌」で世界のリーダー50人のひとりに選ばれたほか、ローマ教皇からも深い感謝と共感が寄せられました。

l  ところがイタリア政府は、入札手続を経ずに難民が関わる団体とゴミ収集の契約を結んだり、難民が滞在できるよう村民との結婚手続きをしたりしたとして、ルカーノ氏の行為を「非合法に滞在する外国人の違法援助」と断定し自宅で拘禁。難民たちも村外に移送することを決定しました。難民排斥を主導する政府の横暴だとして反発する声も強いのですが、これが入管政策の難しさ。「人道主義」だけで突っ走るわけにはいかず、かといって、杓子定規な「法令主義」はあまりにも非人間的。果たして日本は?
チンクエ ・ テッレ, イタリア, Manarola, リグーリア州, 岩, 海
【Timely Report】Vol.204(2018.7.17)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

BLOG記事「欧州で反移民が止まらない!」も参考になります。

外国人と入管の関係に興味のある方は ➡ 全国外国人雇用協会 へ
外国人に関する経済学を知りたい方は ➡ 外国人経済研究所 へ

l  現在、米国で最も注目されている政策論争が「DACA」です。DACAとは、幼少期に親に連れられ米国に入国した不法移民の若者を送還から猶予する措置のこと。昨年9月、トランプ大統領が撤廃方針を打ち出し、撤廃後の政策対応を巡り、国中が大激論。政策合意は難航しており、215日、移民に関する4つの提案が米上院においてすべて否決されました。

l  米国には不法移民が約1100万人いると言われており、トランプ政権は、彼らに対して厳しい措置を断行しています。今年の難民受入上限を、昨年の11万人から4万5,000人に削減し、難民の定住に関わる拠点を20ヵ所以上閉鎖する方針。不法移民の取締りは厳格化され、2017年中の逮捕は前年より3割多い143000人に達しました。拘束件数は8割増です。移民の人権擁護を訴える活動家らが、突然拘束されたり強制送還されたりしています。

l  移民を巡って激論が交わされているのは欧州も同じ。昨年12万人の移民が上陸したイタリアでも総選挙における争点になっています。こうした海外情勢は、外国人に対して厳しい入管行政に対する追い風になっているのです。
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【Timely Report】Vol.113(2018.3.5)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

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l  EU(欧州連合)が、難民問題で大揺れに揺れています。特に6月中旬から月末にかけては、これまでにないほど緊張感が高まりました。100万人を超える難民が押し寄せた2015年の難民危機を切っ掛けに、極右政党が勢力を増し、各国において反移民・反難民の政権が誕生しています。

l  昨年10月に実施されたドイツの総選挙では、極右政党が大きく票を伸ばし、EUの盟主であるドイツのメルケル政権を揺さぶりました。12月には、オーストリアで反移民・反難民の新政権が誕生。チェコでも移民排斥を唱える新政権が生まれます。また、EUの指示に従わないポーランドのポピュリスト政権は、首相を挿げ替えつつも自説を曲げません。2018年も流れは変わらず、4月に反移民・反難民の最右翼であるハンガリーのオルバン政権が再選を果たすと、6月にはイタリアで反移民・反難民の政権が誕生しました。

l  イタリアの新政権は、誕生するや否や、難民流入を阻止するための実力行使に出ます。地中海を渡って、イタリアに上陸しようとする難民を乗せた救助船の入港が拒否されると、それぞれの国の思惑が絡み合って、足並みが揃わず、EUが右往左往し始めます。取りまとめ役であるはずのドイツですら、足元の連立与党で造反劇があり、一時は政権崩壊の危機とも報じられました。

l  いずれにせよ、EUが早期に難民問題を解決することは難しそうです。ただし、この現象を正しく理解するためには、歴史的な経緯に加え、難民認定率(イタリア5%~ドイツ40%:日本0.2%)や移民比率(10%超:日本2%)を熟知した上で考察すべき。表層的な事件だけに目を奪われ、短絡的に「反移民・反難民」を唱えても、EUを「活きた教材」にすることはできません。

l  サッカーW杯を見れば明らかなとおり、ヨーロッパの国々で代表選手の中に移民がいない国など皆無です。EUの問題は、「難民や移民を受け入れる」という大前提の下でキャパシティを超えた国々の問題であり、日本のように、「難民や移民を受け入れる」という大前提がないのに都合がよいところだけ受け入れようとする国の問題とは本質が違います。日本が学ぶべきは、EUにおける「排斥」の現象ではなく、「共生」の努力と諸制度と思われます。
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【Timely Report】Vol.204(2018.7.17)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

BLOG記事「欧州で反移民が止まらない!」も参考になります。

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l  シンガポールでは、「少子高齢化」が社会問題となっています。2015年時点で17.9%(日本33.1%)という60歳以上の人口割合は、2050年には40.4%(日本42.5%)になると予測されています。出生率は1.24(日本1.45)ですからかなり深刻です。東京23区とほぼ同じ面積の中に人口が561万人。外国人を受け入れて成長する(50年・平均+8%)ことを基本方針としており、労働人口(340万人)の3分の1(日本2%)を外国人が占めています。

l  殺人や銃器の発砲、麻薬所持は死刑になり得ますし、不法入国・不法滞在は鞭打ちに処されるなど法律が厳しいため、治安は悪化していないようです。女性の外国人ヘルパーが妊娠したり、工事現場の外国人労働者が怪我して働けなくなったら在留できなくなりますし、外国人労働者を入国させる際には、雇用者が国に保証金を預託し、外国人労働者が行方不明になったら没収するという制度もあります。外国人を「移民」ではなく、「労働力」として受け入れるということは、そういう施策を意味するのですが、日本でできるでしょうか。それとも、「移民」として受け入れるのでしょうか。
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【Timely Report】Vol.223(2018.8.13)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

BLOG記事「台湾は移民政策に踏み込む?」も参考になります。

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l  99日、スウェーデンで総選挙が行われ、反移民を掲げる「スウェーデン民主党」が大躍進。得票率(17.6%)は第3位で、無視できない存在になりました。昨年来、ドイツ、オーストリア、ハンガリー、イタリアと続いてきた反移民の潮流は止まるところを知らないように見えます。【p11p29

l  政権与党の社会民主労働党が1世紀以上にわたり第1党の座を占め、経済も堅調なスウェーデン(人口1000万人)は、移民に寛容な国でしたが、国民の4人に1人が移民系になる中で、2015年の難民危機に国民1人当たりで最大の移民(16万人)を受け入れたこともあり、「スウェーデン市民よりも移民を大事にするのか」という幅広い批判を呼び起こすことになりました。

l  日本でも、訪日外国人や在留外国人による「健康保険タダ乗り論」が一部で出ていますが、外国人の受け入れが増えていけば、スウェーデンと類似の議論が沸き起こるのは必至です。今のうちに、将来を見据えた大きな設計図を描き、必要な制度改革の詳細を煮詰めておかなければ、欧州における反移民の潮流は、遅かれ早かれ、日本にも押し寄せることになるでしょう。
王宮, スウェーデン, ストックホルム, 航空写真
【Timel
y Report】Vol.252(2018.9.25)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

BLOG記事「欧州で反移民が止まらない!」も参考になります。

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